脳のバグらせ方 脳がわかれば恋は作れる(世良サトシ)
By 九条
世良サトシ氏の『脳のバグらせ方 脳がわかれば恋は作れる』は、脳科学と心理学の知見をもとに、私たちの無意識や本能がどのように日常や恋愛に影響を与えているかを解き明かす一冊です。単なる恋愛テクニック本ではなく、深層心理や脳の仕組みを理解し、より豊かな人間関係を築くための実践的なヒントが詰まっています。
1. 顕在意識と潜在意識――氷山モデルの真実
本書の冒頭で強調されるのは「顕在意識は1割、潜在意識は9割」という氷山モデルです。私たちが自覚している意識はごく一部に過ぎず、実際の行動や感情の多くは無意識の領域に支配されています。
- なぜ人は自分の気持ちや行動の理由を説明できないことが多いのか?
- 無意識の力がどれほど強力なのか?
著者は、恋愛感情も例外ではなく、相手の潜在意識に働きかけることが、より深い関係性を築く鍵になると説きます。例えば、初対面の相手に対して「なぜか惹かれる」「なぜか苦手」と感じるのも、潜在意識が過去の経験や本能的な判断をもとに瞬時に決定しているからです。
2. 本能と進化――現代人に残る原始的欲求
現代人であっても、進化の過程で形成された本能や欲求に大きく影響されている点が掘り下げられます。
- 「危険を避ける」「繁殖する」「食べ物を求める」といった根源的な欲求が、私たちの判断や行動の根底にある
- 恋愛においても「遺伝子を残す可能性」や「安心感」といった本能的な要素が、無意識のうちに相手選びの基準となる
著者は、現代社会の複雑な人間関係の中でも、こうした本能が色濃く影響していることを、さまざまな事例や研究を交えて解説しています。理性で物事を判断しているつもりでも、実は本能に突き動かされている場面が多いことに気づかされます。
3. 記憶の可塑性――感情が記憶を書き換える
記憶は静的なものではなく、感情や新しい情報によって容易に書き換えられるという点が強調されています。
- 楽しい体験とともに語られた過去の出来事は、ポジティブな記憶として再構築される
- 恋愛においても、相手に特定の感情を抱かせることで、記憶を意図的に操作することが可能
これは単なるテクニックではなく、相手との関係性をより良いものにするための「記憶の演出」とも言えるでしょう。大人の恋愛においては、過去の出来事や思い出が関係性に大きな影響を与えるため、この章の内容は非常に実践的です。
4. 違和感と新奇性――人はなぜ「違い」に惹かれるのか
人は見慣れないものや違和感に自然と注意を向ける傾向があります。これは生存本能の一部であり、環境の変化に敏感になるようプログラムされているためです。
- 恋愛や人間関係において「いつもと違う一面」を見せることの重要性
- 普段とは異なる服装や話し方、意外な趣味を披露することで、相手の興味や関心を引きつける
大人の人間関係においても、マンネリ化を防ぎ、常に新鮮な刺激を与え続けることが、良好な関係を維持する秘訣であると感じさせられます。
5. 秘密とミステリアス――「知りたい」を刺激する技術
全てを明かさずに一部の情報を隠すことで、相手に想像させる余地を与える――これは人間が「知りたい」と感じる本能を刺激するテクニックです。
- 秘密やミステリアスな要素を演出することで、相手の潜在意識により深く残る
- 適度な距離感や謎めいた部分を残すことが、長続きする関係のコツ
すべてをさらけ出すのではなく、相手に「もっと知りたい」と思わせる余白を残すことの大切さが語られています。
6. 意外性と褒め方――記憶に残るコミュニケーション
単純に褒めるだけではなく、少し意外性を含んだ褒め方をすることで、相手の記憶に強く残ります。
- 「その髪型、普段のあなたと全然違って驚いたけど、すごく似合ってるね」など、意識を揺さぶる表現が効果的
- 恋愛だけでなくビジネスや友人関係にも応用できる
大人の人間関係においては、相手の印象に残る言葉選びや、ちょっとしたサプライズが信頼や好意を深めるきっかけになることを再認識させられます。
7. 曖昧さと認知的不協和――人はなぜ「確定」を求めるのか
人は曖昧さを嫌い、物事を確定させたいという心理があります(認知的不協和)。
- あえて曖昧な態度や表現を残しておくことで、相手がそのギャップを埋めようと積極的に考えたり行動したりする
- すべてを明確にせず、余白や曖昧さを残すことで、相手の関心や想像力を引き出す
これは、長期的な関係性を築くうえで非常に有効なアプローチだと感じます。
おわりに
『脳のバグらせ方』は、恋愛をはじめとする人間関係をより良くしたいと考える大人にとって、脳と心の仕組みを理解し、実践的に活用するためのヒントが詰まった一冊です。無意識や本能に働きかけるアプローチは、恋愛のみならず、ビジネスや日常のコミュニケーションにも応用できるでしょう。
本書を通じて、自分自身や他者の行動の裏にある「脳のバグ」を知り、より豊かで満足度の高い人間関係を築くための第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。